情報ネットワーク社会 (岩波新書 黄版 285)

今でこそカリフォルニアのシリコンバレーは有名であるが複雑系経済学などが流行となる前にさかのぼること10年以上にこの先見性をもった著作は発表された。まずシリコンバレーと日本の秋葉原との比較に言及がなされる。情報産業のアーキテクチャーというインフラがいきわたり産学協同の最先端の研究がなされるシリコンバレー、そして中小産業が狭い地で情報産業の主にハードを担う企業が重層的に集積されたいかにも日本的なある種おもちゃ箱に似たような知的好奇心を掻き立てる秋葉原や蒲田というインフラ。その違いが日米の端的な違いといえよう。しかし日本のシリコンバレーはある種従来の企業城下町とは意を異にする街である。企業城下町というのは重層的ではあるがトップに君臨する大企業が指揮をとってその企業に見合った部品や技術を開発していくのに対し秋葉原や蒲田は創発的に自己発生的に得意分野を持った先進的な技術を持った企業が情報産業のアーキテクチャーでもってフラットにつながっていく街である。そこに上下関係といったものはない。シリコンバレーは産学一体となって政府が主導で基礎研究から徹底的に同じプラットフォームでつながっていくのに対し日本の秋葉原や蒲田は儲かるかということを最優先にビジネスの先行きいかんによってでダイナミクスが起こっていく。情報ネットワークの最も重要なところは誰もが分け隔てなくそのネットワークにアクセスできるというところにある。そしてそのメリットがなければこのテクノポリスは衰退していくのである。しかしまさに創発的、自己発生的なこのシステムはなかなか先を読むことが難しい。しかしこの著作が発表されてからもう30年以上たつが自己組織化とか複雑系であるとか人工知能であるとかこの分野に親和的な概念が発表されてもこの情報ネットワーク社会の根本的な部分は今でも健在である。この分野のパイオニア的な著作に当たりこの分野の深さを知ることを是非お勧めする。