金日成とマッカーサーの陰謀 朝鮮戦争 (文春文庫)

本書は朝鮮戦争中に米軍が北朝鮮各機関から奪ったおよそ1300箱160万ページの文書を読破して、戦争勃発の真実を突き止めたものである。気が遠くなるような努力と執念とに敬意を表したい。圧巻は南進直前の北朝鮮主要部隊の配置を特定したことである。朝鮮人民軍7個師団のうち6個師団が38度線の至近距離に配置されていた事実は、その意図を知るのに充分である。ソ連によって北朝鮮に連れてこられたキム・ソンジュ青年は金日成将軍に化け、ソ連の意を迎えてわずか5年で実権を握り、中ソから南進の了解を取り付ける。伝説の金日成将軍は抗日運動の英雄だが、現実の金日成主席は日本敗戦後に闘いを始めたというのは皮肉である。金日成がソウル占領で李承晩政権は瓦解し戦争は短期で勝利すると考えていたのに対し、実は準備をしていた米軍は仁川に上陸して北朝鮮軍の後方を遮断し平壌に無血入城を果たす。このときスターリンは金日成を見捨てた。「ほうっておけ。金日成には中国に亡命政権をつくらせろ。われわれは新しい支配者とうまくやるさ」。風前の灯となった金日成の頼みの綱は革命成ったばかりの中共であった。「中国は三年間でのべ三百万という大軍を送りこみ、戦争は米中戦争となった。李承晩も金日成も、大国の武力を借りて国内問題の解決をはかるという李朝時代の悪しき伝統をそのまま踏襲した」。ソ連の傀儡を演じて「数百万人もの人命を失った悲劇」を起こして得たものは何もなかった。「みじめな対外盲従の結果を思い知らされた……金日成政権が『チュチェ思想』と称する鎖国政策にとじこもっている源流はこのときのスターリンの裏切りにある」。そして今日まですでに三代閉じ籠もったままである。