天皇の憂鬱 (新潮新書)

「天皇の憂鬱」というタイトルと内容の違いにそこはかとない違和感を持ちつつ読み進めた。その原因の一つは、本書が過去10年に亘る筆者の雑誌への寄稿を基に編集・加筆されたものであることにもあるが、最後まで読み通して、このタイトルの意味が理解出来たように感じた。本書では天皇皇后両陛下のご成婚に至る経緯や二人にとって軽井沢の持つ意味、更には美智子皇后の生い立ちや人となりなど、若い世代の人間にとっては知らない時代のことが詳細に描かれていることはとても興味深く、現代の皇室のかたちを作った背景に美智子皇后の影響力が大きいことを今更ながらに感じさせる。「天皇の憂鬱」とは、皇統が途絶えないこと(その為に男系男子の制度を見直す必要があること)、新天皇と上皇との「象徴の二重構造」とも云うべき状態を避けること、象徴天皇制度は天皇の使命感に依存していること、それは国民感情に支えられていること、従って国民に寄り添い、どのように「新しい皇室のかたち」をつくって行くかが次の世代に委ねられていることにあることがよく分かる。生前退位の意向は、天皇の位を譲るということだけではなく、新しい天皇のかたちを模索する動きでもあったということがよく理解出来る一冊である。